『枯山水』など5作の候補から"ゲームマーケット大賞"をゆるこく予想
11月22日と直前に迫った"ゲームマーケット2015秋"では、"ゲームマーケット大賞"が発表されます。先日、大賞候補作品である優秀作品をすべて遊ぶ機会がありましたので、賞レースを予想しつつ各作品について感じたことを書いていきます。
"ゲームマーケット大賞"とは、年間3回に渡るアナログゲームのイベント"ゲームマーケット"で発表された作品を対象にする賞で、数回の審査を経て優秀作品や大賞を選定します。今回は"ゲームマーケット2014秋""ゲームマーケット2015大阪""ゲームマーケット2015春"で発表された作品が対象になります。
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ボードゲーム・カードゲームを対象とした"ゲームマーケット大賞"が設立 - ゆるこいぶろぐ
http://analog-game.hatenablog.com/entry/24-gamemarketaward
現時点では二次審査を通過した作品から審査員が選んだ優秀作品が5作、カタログおよび公式サイトで発表されています。この中から、大会当日に"ゲームマーケット大賞"が発表される仕組みです。
優秀作品に選ばれているのは以下の5作品です。
『海底探検』
『枯山水』
『ひとひら』
『PRINCESS ESCORT』
『ミネルウァ』
ざっくりと一通り遊んでみて感じたのは、どれも優秀作品に選ばれるだけにレベルの高い作品がそろっているということです。作品の概要を読んでおもしろそうだと感じたら、外すことはまずないでしょう。
"ゲームマーケット大賞"は今回が初開催ということで、二次審査の発表が予定よりも1週間遅れたり、当初の発表よりも多くの作品が二次審査通過作品や優秀賞に選ばれるなど、関係者の苦労がうかがえる審査過程だったようです。その甲斐があって粒ぞろいの作品を選出できていますので、第一回"ゲームマーケット大賞"としては順調な船出となったのではないでしょうか。
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【ゲームマーケット大賞】二次審査通過作品 発表! | GM運営 |『ゲームマーケット』公式サイト
http://gamemarket.jp/blog/【ゲームマーケット大賞】二次審査通過作品-発表/
ということで、筆者としてはどの作品が大賞に選ばれてもおかしくないと考えています。先日優秀作品をすべて遊んだ際にアンケートを取ったのですが、3人の票が3作品に割れました。
そのように拮抗している中、筆者の大賞予想はこうなりました。
本命:『海底探検』
対抗:『ひとひら』
では優秀作品を紹介していきましょう。
●『海底探検』(3人から6人向け、プレイ時間30分)
プレイヤーは探検家となり、海底遺跡にお宝を取りに行きます。タンクの空気がなくならないうちになるべく多くのお宝を回収して得点を稼ぐゲームです。一列に並べられた遺跡チップのマスを、サイコロの目だけ進んでいきます。止まったマスのチップは回収でき、深く潜るほどチップに隠されているお宝の価値は上がっていきます。
ポイントは、海中で持ったお宝のぶんだけタンクの空気が減っていくことです。さらに、進める数が、サイコロの目から回収したお宝の数だけ減ってしまいます。つまり欲張ると帰りにくくなるのです。
加えて特徴的なのは、タンクの空気は全プレイヤー共通だということです。つまり自分がお宝を一つも持っていなくても、他のプレイヤーがお宝を所持していたら、空気はどんどん減っていくのです。
したがって、盤面の状況を把握したり自分がどれだけ進めるかを予測するのはもちろん、他のプレイヤーの動向にも注意を払う必要があります。そういった中でサイコロを振りますと、自分の番だけでなく他のプレイヤーの手番でも一喜一憂できて、盛り上がるのです。
システムとしては双六の派生版なので手軽なのですが、プレイ中に悩んだ上に選択する箇所が随時あるのが、手軽なのに歯ごたえがあるプレイ感を生んでいます。悩むといっても熟考するほどではありませんので、サクサクと遊べるものよいです。結果として、初心者から上級者までわいわい楽しく遊べる快作となっています。
本作は優秀作品のなかでももっとも完成度が高いです。ルールはシンプルできれいにまとまっていますし、コンポーネントも潜水艦ボードが見た目に楽しかったり、遺跡チップの種類の区別がつきやすかったり、ゲームの箱のふたは閉めると簡単には外れないようになっていたりと、すでに数々の作品を世に送り出しているオインクゲームズらしい工夫が随所に感じられました。
本作を大賞の本命にしたのは、幅広い層のプレイヤーが楽しめるからです。サイコロというランダム要素がうまく働いていますので、初心者と上級者が混ざっても問題ありません。難点は、軽いゲームではあるので、ゲーム慣れしていると物足りなく感じることもあるかもしれないことくらいでしょうか。
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ボードゲーム『海底探険』:窒息ぎりぎりまで粘って海底のお宝を回収せよ - ゆるこいぶろぐ
http://analog-game.hatenablog.com/entry/11-deepsea
Oink Games
●『枯山水』(2人から4人向け、プレイ時間60分から90分)
2015年で最も話題となったアナログゲームといえば『枯山水』です。日本庭園を造るというテーマを聞いただけでは地味に感じるかもしれませんが、コンポーネントの作り込みがハンパなく、コマやプレイ風景の写真をみて興味を引かれた人が続出して大きな話題になりました。新聞やテレビなどでも取り扱われましたので、知っている人も多いことでしょう。
ただし、メーカーの生産体制の関係で当初は入手が非常に困難だったことや、ボードゲームとしても比較的高価な価格であることなどから、実際にプレイしたことがある人は多くはないようです。
ではゲームとしての出来はどうなのかといいますと、とても微妙です。筆者のグループには合わなかったようで、つまらなくはないけれども面白いかといわれると若干届かない、という評価になっています。"徳"を自力で入手しづらいので、思ったような庭園が造れずストレスが溜まるという意見が出ました。個人的には、ゲームでできることがシンプルな割にはルールがちょっと多すぎる感じがしました。もう少し、細々としたルールをばっさりやってしまい全体的にすっきりさせたほうが、プレイアビリティが上がったと考えています。
本ゲームのポイントは、なんといっても石のコマやボードなどのコンポーネントの出来の良さです。
石のコマは抽象的なコマらしいものではなく、実際に日本庭園に置かれるような石のミニチュアになっています。しかも着色済みの石膏製ですので再現度は抜群です。ですので見た目はとてもキャッチーですし、手で持った感じも石そのものですしと、とても魅力的です。さらに、同じ種類の石のコマであってもすべて違う形をしているという凝りよう。おかげで、初めて見た人の盛り上がりかたは随一です。
砂紋タイルや庭園ボードもそれっぽく作られていまして、単にタイルを好きなように並べた上で石を適当に配置するだけでもそれっぽいものが作れて楽しめます。ですが実際に遊んでみますと、手番でできることには制限がありますので、なかなか思うような庭を作れません。そのもどかしさを楽しいと感じられるか否かで、作品に対する評価はわかれるでしょう。また、枯山水に関するさまざまな要素を投入したおかげで、得点計算が複雑になり遊んでいて見通しがつきにくくなっているのも、引っかかるところです。
ということで、作品トータルとして優秀作品に選ばれたのは妥当だと感じましたが、大賞ではないかな、といったところです。
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枯山水 新装版 - New Games Order, LLC.
http://www.newgamesorder.jp/games/stone-garden
●『ひとひら』(2人から4人向け、プレイ時間20分)
6色の桜コマを一度に取りすぎないようにしながら集めていき、最終的に集めた数によって点が得られるゲームです。運と度胸と戦略と記憶力が合わさった、適度に手軽で悩ましく意外性のあるゲーム展開を楽しめます。
ポイントは、たくさん取らないと点を稼げませんが欲張りすぎると破綻してしまうことです。手番でプレイヤーは、巾着に入っている桜コマを見ずにいくつか取り出します。1手番に3回まで取り出すことができますが、その合計は8個までです。
ただし、1回の手番で取り出したコマの色が同色3つ以上になったり、5色以上のコマを取り出してしまったら失敗となります。その際、黒色のコマはワイルドカード扱いなので、どの色とも数えます。黒色のコマは他の色に比べて個数が1/3と少ないですが、要注意です。
このようにしてコマを取り出していき、失敗する前にやめればコマをすべて獲得できます。失敗した場合は、一部だけ獲得できます。ですので、コマを引くたびに手番プレイヤーは一喜一憂しますし、見ているプレイヤーも同じくらいワイワイと楽しめる仕組みです。
もう一つのポイントは、単にコマを多く取れば勝てるわけではないことです。獲得したコマは各自のついたての中と外に並べます。これらは両方とも得点になるのですが、ついたての中と外では得点の計算方法が異なるのです。したがって、どちらにどのコマをどれだけ残すかに頭を悩ますわけです。
その上、外のコマは他のプレイヤーが集めた個数に関わらず得点になりますが、中のコマは他のプレイヤーと比較した上で個数が多いほど高得点になりますので、他のプレイヤーの動向をしっかりチェックしておく必要があるのです。
本ゲームは、やることは巾着からコマを取り出すだけと簡単ですが、高得点をめざす場合は、他のプレイヤーの動向をきっちり追いかけた上で、コマを獲得していかねばなりません。つまりコマを取り出すというシンプルでドキドキする運試しで盛り上がるだけでなく、記憶力や判断力、戦略に基づいた選択をしていくというゲームらしい要素がうまく盛り込まれた作品なのです。
ではなぜ大賞候補の本命にしなかったかといいますと、『海底探検』のほうがよりシンプルでわかりやすいが故に、多くの人たちに楽しんでもらえるのではないか、と考えたからです。『ひとひら』と『海底探検』のどちらを本命にするかは、かなり迷いました。
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http://gamemarket.jp/game/ひとひら/
●『PRINCESS ESCORT』(3人から8人向け、プレイ時間20分から40分)
いわゆる"人狼"ゲームの派生系です。正体隠匿型ゲームなどとも呼ばれます。プレイヤーは姫を守る護衛軍となり、紛れ込んでいる反乱軍プレイヤーの手から姫を守りながらさまざまなクエストを達成していきます。護衛軍は7日間姫を守るなどすれば勝利で、反乱軍は姫が何らかの形で死亡するなどすれば勝利となります。システムは評判のいい同種のゲーム『レジスタンス』を柔らかくした感じです。
"人狼"ですので、プレイヤーのうち誰が護衛軍で誰が反乱軍なのかはわかりません。それをゲーム中の会話や仕草、キャラクターの特殊能力やクエストの結果などで絞り込んでいき、相手陣営側を減らしていくのも目的達成の手段の一つです。
"人狼"は、人によって比較的"合う合わない"の差が大きいゲームです。筆者がゲームを遊んでいるグループは人数が少ないせいか、あまり"人狼"が合わないようで、今まで何種類かの作品を遊んでみましたが、好感触だったのは『ワンナイト人狼』くらいでした。ですので本ゲームにはあまり過度な期待をせずに遊んだのですが、結果はいい意味で裏切られました。
理由の一つは、ゲームの主な目的が表面上、クエストを達成することになっていることです。多くの"人狼"はゲームの目的が他のプレイヤーの正体を見極めて相手陣営を滅ぼすことですので、展開によっては疑心暗鬼になった上でギスギスした空気になることもあります。しかし本ゲームは、クエストというとりあえず達成すべきお題目がありますので、プレイヤーは協力してそちらに挑まねばなりません。つまり協力型ゲームのいいところをうまく取り込めているわけです。
また、プレイヤーがいきなり退場することが少ないのもポイントです。多くの"人狼"は、いきなりゲームから退場させられるケースがありますが、本ゲームはヒットポイントシステムになっていますので、その可能性は低いです。
その結果、ゲームから即脱落するおそれを抱くことなく、護衛軍・反乱軍ともに表面上はクエストを達成するよう、ああでもないこうでもないと話し合いながら、比較的にぎやかにゲームが進行します。
ただしこれらの要素は諸刃の剣でもあります。筆者が遊んだところでは、プレイヤー同士の話し合いはどうやってクエストを達成するかに集中しがちのため、反乱軍のあぶり出しが疎かになりました。
また小人数で遊んだせいかクエストを1度も達成できなかったため、最後は反乱軍をあぶり出す方針に変えようとしたのですが、仮に反乱軍が誰かを当てたとしても一撃で退場させられないために詰んだ、という回もありました。
それでも話し合いを中心とした流れが盛り上がったので楽しかったのですが、"人狼"慣れしていない筆者の環境ではどうやったら護衛軍が勝てるかは謎のままです。
ということで本作は楽しいことは楽しいのですが、きちんと遊ぶには若干の経験や適切なプレイ環境、特に多めの参加者がいたほうがよさそうだという点で、ほかのゲームと比べるとハードルが高いことから、大賞に選ぶのは厳しいかな、という結論です。
なお少人数で遊ぶ場合は、少人数用の【編成】クエストをオリジナルで作るなどして用意するとよさそうです。【編成】クエストとはそのクエストに参加できる人数が少ない特殊クエストです。このクエストをうまく利用することで護衛軍か反乱軍かのヒントをつかんでいきます。標準の【編成】クエストは少人数向けではありませんので、少人数で遊ぶと反乱軍を絞り出すヒントに不足する感じはあります。
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PRINCESS ESCORT - てぃ〜くらぶ
http://t-club.jimdo.com/princess-escort/
●『ミネルウァ』(1人から4人向け、プレイ時間60分から90分)
プレイヤーはローマ帝国の都市管理官になり、自分の都市を発展させていきます。具体的には、自分の都市を構成する施設タイルから生産した限られた資源を使って、新しい施設タイルを建設して都市を大きくしていきます。拡大再生産型とか、リソースマネージメント型と呼ばれるゲームです。
特徴的なのは施設タイルから資源などを生産する方法です。タイルは正方形をしており、新しく建設したものは既存のタイルときちんと並ぶように配置していきます。その施設タイルを稼働させて何かを生み出す場合は、特殊なタイル"住宅"を稼働させたい施設タイルのある行もしくは列に置きます。すると置いた住宅タイルからいずれか一方向にある施設タイルのみ、効果を発揮する仕組みです。
したがいまして、施設タイルをどの順番で建設してどのように並べ、どのタイミングで使用するかに頭を悩ませることになります。また、勝つためには勝利点が必要なのですが、勝利点の入手方法は3種類用意されており、それぞれは各種の施設タイルと密接に関係しています。ですので施設タイルは、必要な資源を獲得するためだけでなく、最終的な勝利の図をある程度描きながら建設していかねばなりません。
本ゲームは、今回の優秀作品の中では最も歯ごたえのあるゲームです。1回試しに遊んでみてゲームの流れを把握し、どのような施設タイルが用意されているかを把握してからが本番です。筆者のように重いゲームが苦手な場合は、数回遊んでもうまく都市を回転させていく感覚がつかめないこともあるかもしれません。それでも、限られた資源をどう生かすかに頭を悩ます過程が、楽しいのです。
また、本ゲームは拡大再生産型にしては軽めなのも特徴です。ゲーム慣れしていない人ですと若干ハードルが高いかもしれませんが、同ジャンルのゲームの中では手軽ですので、拡大再生産型ゲームにチャレンジしてみたいという人にはちょうどよいでしょう。
大賞候補として本ゲームを予想していないのは、中級者以上向けのゲームなのでほかのゲームと比べるとハードルが高いことから、大賞には選びにくいのでは、と考えました。逆にそこを評価するのであれば受賞もあるでしょう。
□関連リンク
Minerva/ミネルウァ
http://okazubrand.up.seesaa.net/page/minerva.html
●まとめ
今回優秀作品に選ばれた作品はバラエティに富んでいる上にどれもレベルが高いものばかりです。筆者は『海底探検』を大賞候補だと予想しましたが、各自の好みによってツボにはまる作品は異なります。『枯山水』を遊んでみたらとても面白かった、ということもあるでしょう。ですので、"この作品は気になっていたけど、こう書かれているから遊ぶのをやめよう"ではなく"こう書かれているけど気になるから遊んでみよう"と考えて遊んでみてください。きっと満足のいく結果になるでしょう。
(橋本 崇史)